リテーシュ・バトラ監督『めぐり逢わせのお弁当』(インド・仏・独・米、2013年).

●リテーシュ・バトラ監督『めぐり逢わせのお弁当』(インド・仏・独・米、2013年).

 2014年夏、インドのムンバイ訪問後、タイ航空での帰国便の小さなスクリーンで鑑賞。インド映画というと、私にはボリウッド映画という印象が強く、歌って踊ってのめくるめくメロドラマの展開が思い浮かぶ程度の存在でしかなかったが、これはいわゆる「アート系」の映画の秀作である。帰国してみると日本でも上映中で、しかも東京では一月以上ロードショウ上映になるような人気ぶりであったことを思い出す。ただし、大きなスクリーンで再鑑賞したのはしばらくしてのちで、さいたま芸術劇場で上映会があったときのことになる。

 やや早い定年を迎えようという妻を亡くして一人暮らしの公務員サージャンと、小学生の子どものいる既婚女性の主婦イラが、間違って(?)配達されるお弁当を媒介に、それぞれの生を静かに問い直していくストーリーになっている。誰もが日常でふと感じることのある消し去ることのできない、生を求めるもがきのような感情を巧みに表現した作品で、こういう比較は安易にすぎるのだろうが、小津映画のような味わいがあって、日本も含めて欧米でも人気となった理由もそのあたりにあるに違いない。

 主人公サージャンの部下となった、孤児として育った青年の人生物語が、人生の半ばから後半へと差し掛かる主人公二人の人生と対比されるように挿入されていて、それが主人公の公務員の老成と衰えの両面を映す鏡ともなって、主人公の自問と断念を導くひとつの要素となっているが、それはまた、次世代へのおだやかで明るい期待の表れでもあるように思われて、そうした効果があって、私たちはいささか静かにかつ穏やかにこの

 


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